シカの誘引狙撃 その14 半矢の追跡

撃った鹿が即倒しなかった場合、弾が当たっているかを確かめて、追跡することになる。追跡の経験は限られているが、見聞きしたことから考えていることを書いていこうと思う。

誘引地点から鹿が逃げた方向に向かって歩き、血痕を探していく。被弾した位置ですぐ血が流れ出すとは限らず、少し離れた場所から血痕が始まることもある。

基本的には、出血量が多く、連続的に血痕が確認できれば、追跡可能な範囲で倒れている可能性が高い。一方で、血痕が確認できても、血の量が少なく、途切れ途切れで、逃走経路が斜面上部へ続いていたりすると、望みは薄いと考えている。

例えば以下の写真は、被弾位置から40mほど離れた位置で倒れていた個体と、その追跡経路で見られた血痕である。この程度の距離でも、狙撃地点からは倒れたのを確認できなかったので、追跡することになる。

この個体は、斜面を横切るように走っていたところ (誘引場所で別の1頭を撃った後、こちらに向かって走ってきた)を横から撃ったが、撃った直後には走る速度が落ちたように見えなかったので、追跡を開始するまでは、弾が当たっていたかすら確信できなかった。しかし、被弾したであろう位置から10mも離れていない位置で、写真(左)のように低木の幹に血がベッタリと付いていたため、ほぼ間違いなく倒れていると思われた。追跡すると、最初はやや斜面上部方向へ向かっていたのが、谷側へ斜めに降りていく方向へ転換。案の定、谷で倒れていた。解体時に確認したところ、弾は肝臓を貫いており、そこから大量出血したと見られる。

シカの場合、心臓に当たっても数百m走ったというような話もあるが、これだけの血痕が確認できていれば、倒れていると期待できるので、諦めず追跡すべきであろう。

一方、捕獲に至らなかった追跡時の痕跡も紹介する。約2時間かけて400mほど追跡し、被弾したと思われる個体を再発見できたが、難なく斜面を登って逃げられたので、追跡を諦めた個体である。

この個体は誘引場所で撃ったが、糠の上に血の付いた肉片と毛が残されており (写真左)、被弾したのは間違いなかった。谷間を下流へ向かって逃げたのが見えていたので追跡したが、最初の血痕が発見されたのは30mほど離れた場所で、その後も血痕が散見されるものの、途切れ途切れで逃走ルートを割り出すのに手こずった。鹿が乗り越えたと思われる倒木に血や毛が付いていることが多かった (写真中央)ので、恐らく腹側を弾が掠めたものと思われるが、大出血を引き起こせる内蔵損傷に至らなかったものと思われる。所々、鹿が休憩したものと思われる位置では、それなりの量の血痕が残されていた (写真右)のだが、血痕が連続していないので、何度も戻って分岐する獣道を辿るはめになった。最終的に被弾したと思われる個体を目視で捉えたが、急な斜面をピョンピョン飛んで上部へ逃げられたので、止め矢を撃つこともできず、これ以上の追跡は困難と判断し諦めた。

イノシシやクマと異なり、シカは半矢になったからといって里に出て人を襲うというようなことは考えにくい。道路や畑、民家の裏などで倒れて他者の迷惑になることも考えられなくはないが、そこまで気にする必要はないと思っている。半矢にしてしまった個体をなるべく回収できるよう努力するという姿勢は大事だが、自身の安全を最優先にすべきであるし、仕事の予定があればそちらを優先したほうが良いと私は思う。半矢の原因が道具 (弾や照準器など)にあると思うのであれば改善すればいいし、状況判断 (距離・射撃タイミング等)や射撃技術にあると考えられるのなら、イメージトレーニングや射撃練習を行うしかない。

追跡を行う際に特に気をつけるべきなのは、止め矢を撃つ場合である。誘引狙撃自体は、誘引場所と狙撃場所が予め決まっているので、バックストップを確保したり周囲に危険がないことを確認したりしやすいが、止め矢を撃つときはシカが移動した先で撃つことになるので、より慎重に撃つ際の安全確保をする必要が生じる。弾を装填したままで追跡するというのは論外であるし、被弾した個体を発見して慌てて撃つのも危険である。半矢の個体が藪に引っかかって暴れていたり、角のある♂が倒れているもののまだ動いていたりする場合は、少し離れた場所から止め矢を撃つ必要が生じるが、移動時には脱砲し、バックストップを確保して撃つことが大事である。

このシリーズ記事は、今回で一通り完結である。誘引狙撃とはどういうものかと、実際の手順について、ざっと解説できたかと思う。今後も、誘引狙撃について実猟を通して気づいたことや考えたことなどあれば、書いていきたいと考えている。

Leave a Comment