シカの誘引狙撃 その11 狙撃地点までの移動

車を停めた場所から狙撃場所まで移動するにあたって、私が意識しているのは、静かに、安全に、素早く、そして大汗をかかないようする、ということである。

大きな音を出さず安全に移動するための準備は、移動ルートの整備と装備の選定段階で終わっているので、あとは気をつけて歩くことを意識すればよい。

簡単でないのは、素早くかつ汗だくにならないように移動する、ということである。巻狩の場合は、配置に着くまで複数人で行動するので、先頭を歩く人がペースを作ってくれるが、1人あるいは少人数で行う誘引狙撃では、自分でペースを決めなければいけないことが多い。

一刻も早く狙撃場所に着きたい、という欲求を抑えて、体温が上がりすぎないよう、歩き方を調整する必要がある。

私が実践しているのは、車から狙撃地点までのルート上に、何箇所か決めておいて、毎回そこで立ち止まり、装備を少しずつ整えていく、という方法である。

例えば、立ち止まる場所を2箇所決めておき、最初のところではバックパックに入れておいた猟友会ベストを装着、2番目の場所で帽子を被り防音イヤーマフを着ける、といった具合である。

動かず待っていても暖かいくらいの服装をしていると、ゆっくり歩いても汗をかいてしまうので、たまに立ち止まって体温を下げるのである。

ちなみに、猟友会ベストと帽子は、狩猟時には常に身に付けることが推奨されているが、単独猟で林道を歩いており、なおかつ銃の弾倉に弾を入れていない場合、私は着ていないことが多い。理由は、悪目立ちしそうだから。車での移動時にもほとんど着ることはない。理屈としては、林道を歩いている段階では通常のハイカーと同じであり、誤射される恐れは低い (林道を歩いていて誤射された事件は過去に何度も起きているが、そもそも林道に向けて撃ったり、林道を跨ぐようにして撃つのがルール違反)と考えている。逆に、林道を外れて林内に入っていく手前、あるいは弾を装填する前には、必ず着るようにしている。

途中で何度か立ち止まることには、じっとして林内の音に耳を済まし、異常が無いかチェックする (人の話し声、大型動物の出す音、鳥の鳴き声などに注意する)と共に、自分の体調を確認するという意味もある。尿意や便意を生じているならば、狙撃地点からなるべく離れた場所、早い段階で済ませておくほうが無難である。

大汗をかかないようにするのは、匂いでシカに気づかれないようにするというよりは、単に汗だくになると不快であるのと、狙撃場所で待ち始めた時に体を冷やしていしまう恐れがあることが大きい。あと、息が荒くなると音でシカに察知されるのではないか、という恐れも感じている。

当然ながら、シカに気づかれないようにする配慮は、狙撃場所に近づけば近づくほど、必要である。シカは既に誘引場所に来ているかも知れない、あるいはその近くまで寄ってきているかも知れない、という意識を常に持って、狙撃地点まで移動することが大事である。

狙撃地点に到着した際に、シカが誘引場所にいる可能性を考慮すると、到着前に装備が概ね整っており、あとは銃のカバーを外して弾を装填し構えて撃つだけ、という状態になっているのが好ましい。

私の場合、狙撃地点までの移動ルート中、誘引場所が直接見えるようになる直前で、射撃用手袋と防音イヤーマフの装着をし、銃の弾倉へ弾を入れる (装填状態にはしない)ところまでを行う。この位置であれば、シカが誘引場所にいたとしても、こちらの姿は見えないし、音もゼロではないが低減されることが期待できる。

次回は、狙撃場所での待ち方について書く。

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