シカの誘引狙撃 その1 誘引狙撃の利点

誘引狙撃とは、動物を何らかの方法で特定の場所へ誘引し、そこにやってきた個体を狙い撃つ方法である。誘引方法としては、餌を撒く、笛やスピーカーを使って音を出す、あるいは動物にとって好ましい環境を猟場内に設置する、といったものが考えられる。

1. 単独・少人数で実施できる。これは巻狩と比較した際の利点であるが、頭数が要らないということは、自分の都合に合わせた日時に出猟できるということでもある。実際、私が誘引狙撃をやるのは概ね平日で、日曜日は巻狩に参加している。

2. 猟場内での移動に体力や技術力をあまり要しない。シカやイノシシを対象とした単独・少人数での忍び猟というのをやっている人はそれなりにいて、インターネット上でも情報がそこそこあり、確かに憧れる猟法ではある。ただ実際にやってみると、林内でシカを発見し忍び足で接近するというのは、そう簡単ではないことが分かる。特に、見通しが悪く獲物の警戒心が高い猟場においては、忍び猟は難しいだろう。誘引狙撃の場合は、獲物を特定の場所に誘き寄せるので、歩き回って探す必要がなく、待っていれば動物の方からこちらに接近してくれるので、気づかれずに射程距離まで距離を縮めやすい。

3. 安全性が高い。猟銃事故の主な原因として挙げられるものに、暴発・矢先の不確認・誤射がある。暴発は、弾を装填した状態で移動するという不当装填によって起こることが多いが、誘引狙撃の場合は、狙撃地点に着いたら弾を込めて、そこを離れるときは抜く、という単純な決まりで装填状態を管理できる。装填した後で、動物の動きに合わせて立ち位置を移動したい、という状況が起きにくいので、暴発に至る可能性が低いように思う。突然現れた獲物を撃つため、急いで装填し閉鎖不良を起こすといったことも生じにくい。矢先の不確認については、誘引地点と狙撃地点を設定する段階で、見通しとバックストップを確保するので、獲物が想定する場所に来ている場合は、獲物の先に藪があって、その先に人が居たり建物があるということは生じ得ないと言える。誤射についても重複するところはあるが、誘引狙撃の場合は同じ場所へ何度も通って行えるので、周辺の人 (ハイカー、林業従事者、他の狩猟者、など)の動きを把握しやすい、というのは安全に寄与する。また、餌を食べていたり休息していたりするところを狙撃する場合 (コール猟は当てはまらない)は、獲物がほぼ動かないところを撃つので、双眼鏡等で獲物の姿をじっくり確かめてから撃つ猶予がある。

4. 広い猟場を確保する必要がない。追い出し猟 (=巻狩)の場合は一般的に、いつも同じ場所でやるのではなく、次々に場所を変えて実施することになると思う。実際のところ、獲物がどういった動きをして、一度追われた山に戻ってくる、あるいは別の個体が入るのにどれくらいの期間が必要か、というのは場所や状況にもよるので一概には言えないだろうが、とにかく新しい場所でやった方が猟果が上がりやすい、という意識になりがちである。そうなると、自分たちが行ける猟場の数を増やしたい、自分たちの猟場に他のグループが入るのは嫌だ、という考えになる。単独・少人数忍び猟の場合も、犬を使って追い出すよりは影響が少ないだろうが、何度も同じ場所へ入れば、シカの警戒心が高まり捕獲が難しくなるだろうから、新たな場所を開拓しようという発想に至りやすい。こうなると、猟場を巡って争いになることもあるし、自宅から遠い場所へ遠征することになって、時間やガソリン代を消費することにもなりやすい。それに対し誘引狙撃は、きちんと誘引できれば同じ場所を短期間の間に繰り返し利用できるので、自宅から近い場所に設置すれば移動のコストを低く抑えることができる。たとえ他の狩猟者が同じ場所に入って、犬を使った追い出し猟をしたとしても、誘引する要因があれば、獲物が戻るのも早いことが予想されるので、あまり気にする必要が無くなる。

5. 捕獲後の処置がしやすい。狩猟は撃って終わりというわけにはいかず、搬出・解体・埋設といった処理を行うことになるわけだが、撃った場所によってその労力が大きく左右されることになる。大人数でグループ巻狩の場合は、一番奥の待ちにかかって撃ったとしても人手があるので搬出できるが、少人数で行う場合はそう単純ではない。回収が難しい場所では撃つのを止めるという判断も必要になるし、必要ならその場で解体して埋設する技術や道具も要ることになる。その点、誘引狙撃の場合は半矢で逃さなければ、獲物が倒れる範囲はそう広くないので、捕獲後の段取りを想定しやすい。解体や埋設に必要な道具を、予めその場所に置いておくことさえできる。

このように、利点が多いと考えられる誘引狙撃であるが、日本では個人で実施している人があまり多くはなさそうである。次回は、誘引狙撃の欠点というか、必要な条件や技能について書きたいと思う。

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