シカの誘引狙撃 その2 必要な技能

1. 場所の選定。安全第一は言うまでもないが、どういった場所をシカが好み、どこを通って移動するか、ということがある程度分かっていないと、誘引するのに適切な場所を選べないだろう。獣道がついていても、最近シカが通っているかどうかが判断できないと、効率が落ちることになる。狙撃地点については、シカから発見されにくく、なおかつ狙撃しやすい場所を見つける感覚が必要になる。

2. 場所を整える。場合によっては、誘引場所の見通しを確保するため、枝を落としたり、藪を刈ったりすることがある。逆に狙撃場所は、シカから見つかりにくいように、倒木や葉の付いた枝を配置したりする。また、長時間待機しやすいよう、整地することもあるだろう。林道から狙撃地点までのルートも、歩きやすいよう整えることがある。鋸やスコップといった基本的な道具を使える必要がある。

3. 静かに安全に林内を移動する。忍び猟よりは移動時の音を気にする必要が無いが、それでもあまりガサガサ音を立てたり、斜面で滑り落ちたりしていては、シカを逃してしまう可能性が高まる。それに何より、単独での行動時は滑落や転倒が命取りになる。ある程度、林内の斜面を安全に・自信を持って歩ける技術・装備が不可欠である。

4. 静かに待っている。これは巻狩の待ちでも同じだが、2時間あるいはそれ以上に獲物が来るのを待つことになるので、じっとしていられない性分の人には合わない猟法だろう。狙撃地点に付いたあと、弾を装填したり道具の出し入れをしたりすることになるが、あらゆる動作を静かに丁寧に行う必要があるので、がさつな人にも向かない。基本的に冬季に行うので、寒さに耐えられることも必要になる。

5. 目と耳がいい。双眼鏡や電子防音イヤーマフなどを使用することで、視力と聴力はある程度補えるが、待っている間ずっと双眼鏡を覗いているのも疲れるし、電子防音イヤーマフも雑音が入るのが気になったりする。誘引場所の付近で何かが動いた、ということを裸眼、あるいは負担にならない矯正器具を付けた状態で気づけるほうが良いだろう。環境と距離に依るが、誘引地点を静かに歩いているシカの足音は、狙撃地点からだと全く聞こえないと思ったほうがいい。耳が悪いと困るのは、付近を通る人間の話し声や、クマやイノシシの接近に気づきにくい場合である。

6. 正確な射撃。当然ながら、誘引地点にいるシカの急所に当てられるだけの装備と腕がなければ、狙撃することはできない。基本的に射撃姿勢は自由である。つまり、立射をする必要はなく、膝射や伏射でなおかつ依託をしてもいい。私は、倒木や立木に委託した状態で座射するようにしている。長年銃で大物猟をしてきた人の中にも、バックショットで走っている動物を撃つことに慣れているせいか、静止物に対して1発弾 (スラッグ・ライフル弾)を正確に打ち込む技能が低い人がいる。あるいはもっとひどい人だと、照準を調整していない、頬付けができていない、という人もいる。コール猟の場合は獲物との距離も近くなりがちで、なおかつ連射もしやすいのでそれでも問題ないが、誘引場所と狙撃場所が離れていて見通しも悪い場合は、最初の1発で当てないと、銃声に驚いて走り出したあとの2発目、3発目はまず当たらないし、危険なので発砲自体を避けるべきである。

7. 追跡する。半矢で逃げられた場合、ある程度は追跡して消息を確かめるのが望ましい。犬を連れているわけではないので、自力で血痕や足跡を追跡することになるが、このときも周囲の地形や獣道の走り方を把握していると追跡しやすい。

8. 搬出・解体・埋設処理する。これは忍び猟でも同じだが、単独でやる場合は特に、動物を撃ち殺す前にこの技術を身に着けておく必要がある。これらが手早く行えないと、時間内 (場合によっては暗くなる前)にきちんと作業を終えて家に帰れないという状況が生じ、大変危険である。

私が思うに、巻狩というのは個々の能力が低くても、運が良ければ撃てる状態を生み出しやすい。射撃が上手くなくても、バックショットを景気よく鳴らせば当たる可能性がある。誘引狙撃の場合は、単独あるいは少人数で行うこと、また正確な射撃が求められることから、それなりに練度を上げないと、まぐれで捕れる可能性は低いように思う。次回からは、誘引狙撃の実際的な手順について詳しく書いていくつもりである。

Leave a Comment