シカの歩き流し猟 その1

私が言う歩き流し猟とは、比較的歩きやすい場所を歩いて移動し、射程内に現れた獲物を撃つという方法である。

歩いてシカを発見し撃つ、という流れに関しては、所謂「忍び猟」と同じであるが、歩き流し猟では、獲物に気づかれないよう「忍ぶ」という意識が低いため、猟のやり方としては大分異なると考えている。

車を使った流し猟と異なるのは、車が入れない場所でも実施可能なことである。私の住んでいるエリアの場合、車で入れて道脇で銃が撃ちやすく、なおかつシカが高密度で生息している、といった都合のいい場所は少ないが、代わりに荒れた作業道や、鉄塔の巡視路などが豊富にあり、歩き流し猟をするのに適している。

歩き流し猟の利点としては、以下のようなことが挙げられる。

1. 単独で実施できる。頭数が要らないので、自分の都合がいい時に出猟できる。さらに言えば、車を使った流し猟では、どう考えても運転手と射手を分けたほうが効率が良い (つまり2人でやった方が捕獲しやすい)が、歩き流し猟ではむしろ単独のほうがやりやすいだろう (欲を言えば、少し離れて荷物持ちの助手が歩いてついて来るのが一番楽だが)。

2. 継続的な事前準備が要らない。これは餌を使った誘引狙撃と比較しての話だが、餌を設置しに行くといった繰り返しの作業は必要ない。これは、自宅からある程度遠い場所でも実施しやすいことを意味している。

3. 人の少ない場所で実施できる。巻狩では、足腰の弱った高齢の参加者がいると、長時間歩いて待ち場まで移動することが出来ないので、実施場所が車で入れる林道から近い場所に限定されがちである。都市近郊の場合、そういった猟場では登山者等の出入りも多くなり、危険が伴いやすい。逆に言えば、山中を歩いて移動する力さえあれば、巻狩のグループと干渉しない場所で狩猟を実施できることになる。狩猟圧の低い場所に生息しているシカは、警戒心が低いことが期待でき、捕獲の難易度が低い可能性がある。

4. 特別な探索技術や装備を必要としない。忍び猟と比較すると、シカに気づかれないようにするための意識が低く、歩きやすい場所を選んで通るので、足音を立てないように林内を移動する技術はそれほど必要ない。シカを発見する技術にしても、シカに気づかれる前にこちらがシカを発見する必要はなく、シカが警戒音を出したり逃げ始めたりして初めてシカの存在に気づいたとしても、十分勝負になる。忍び猟をメインにしている狩猟者の中には、シカに気づかれず近づくために、靴 (音が出やすいスパイク付きを避けることが多い)や服 (音の出にくい素材や、迷彩柄が好まれがち)にも配慮する人が多いが、歩き忍び猟ではそのような装備は不要で、靴はスパイク付きでもいいし、猟友会ベストを普通に着用すれば問題は無い。

一方で、歩き流し猟をするには、以下のような技能や環境条件が必要である。

1. 歩いて移動する体力。最低でも半日、可能なら日の出から日の入りまで、途中に休憩は挟みつつも、荷物を持って長時間移動するだけの体力が必要である。銃と装弾に加え、水や食料、必要な道具全て、更には捕獲した際の肉を持って移動することになる。山道を安全に歩き、余裕を持って予定したルートを踏破できるだけの体力に自信が無ければ、歩き流し猟は諦めたほうがいい。

2. 広い猟場の把握。移動しながら行う猟法なので、誘引狙撃や巻狩に比べて、広い範囲を把握しておく必要がある。シカの出現しやすい場所を知っているだけでなく、どの位置にシカが居れば射撃可能で、どこで出た場合は射撃を諦めるべきか、ということまで予め考えながら下見をする必要がある。

3. 動的を含む射撃技術。誘引狙撃や忍び猟では、狩猟者の存在に気づいていないシカ、あるいは人間の存在に気づいてはいるが、自らが狩猟者から発見されてはいないと思っているシカ (シカの気持ちはあくまで不明だが、とにかく逃走に至るだけの危険を感じていない状態)を撃つので、シカは棒立ちしているか、あるいは座ってさえいる状態を狙うことになる。忍び猟を行っている狩猟者の中には、失中や半矢を避けるため、動いているシカは撃たないと決めている人もいるくらいであるが、歩き流し猟の場合はそれだと射撃機会が激減していまう。基本的にはシカがこちらの存在に気づいて、警戒音を出すか、あるいは逃げようとするところを狙うことになるので、シカが動いている場面が多いし、途中で立ち止まるにしても距離が離れていることが多い。それを、巻狩で一般的な距離 (20m前後)より遠いところから撃たなければならないので、それなりの射撃技術が求められる。

4. 解体・埋設する技術。単独で実施する場合は特に、動物を撃ち殺す前にこの技術を身に着けておく必要がある。

5. 見通しのよい猟場。ある程度開けた場所でないと、動いているシカ、あるいは少し逃げた先で立ち止まっているシカを撃つのは困難である。植生で言うと、常緑広葉樹林(照葉樹林)や手入れのされていない針葉樹林(人工林)などは、林内が暗く不向きだと思う。背の高い低木や笹が生い茂っている場所では、例えシカを視認できたとしても、バックストップを確保しにくいので撃てないことが多い。それに比べると、落葉広葉樹林や適切に間伐された針葉樹林は、明るく見通しが良い。皆伐された人工林跡が点在していると、さらに見通しがよくやりやすいと思う。地形で言えば、幅の狭い谷が入り組んでいる場所よりは、なだらかな斜面の大きな谷が望ましい。

次回は、歩き流し猟で歩くルートを決める時に考えていることなどを記そうと思う。

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