シカの誘引狙撃 その9 服装と持ち物

誘引狙撃では、荷物を持ったまま長時間移動する必要が無く、単独あるいは少人数で行うので、荷物の量はある程度多くなる。

まず服装だが、狙撃場所で動かずに待つ必要があるので、寒さに耐えられる格好であることが第一である。私の場合、実施する時期と場所は、気温が氷点下になることも多いので、

頭: ネックゲーター + ワッチキャップ + 猟友会キャップ
上: 保温下着 + 長袖シャツ + ダウンベスト + レインウェア + ダウンコート + 猟友会ベスト
手: 手袋
下: 保温下着 + 作業ズボン + スウェットパンツ
足: 保温靴下 + ダウンフットウォーマー + 長靴

ぐらいの重ね着をしている。待っている間に寒くない格好だと、狙撃場所まで移動する際には汗をかいてしまうので、途中で脱ぎ着できる調整しやすい服装が望ましい。

耐水性・静音性を備えたカモフラージュ柄のハンティングウェアも売っているが、とても高価なので私には買えない。歩くとジャラジャラ音がするようでは流石に困るが、多少シャカシャカ音がするぐらいなら、誘引狙撃では気にする必要はないと思われる。

手袋は、移動・射撃用と待機用の2種類を用意している。射撃体勢に入るまでは、双眼鏡で誘引場所付近の観察をするだけなので、待機用の手袋はそれほど操作性に優れたものである必要はない。移動・射撃用のものは好みもあり値段もピンキリだが、私は釣り用の安いストレッチグローブ (小指と薬指以外の指先が出るタイプ)を使っている。こちらは最低限の保護機能と滑り止め、そしてキンキンに冷えた機関部やストックに素手で直接触れる面積を少なくすることが目的なので、暖かさはあまり必要ない。

狩猟中は腕時計で時刻を確認するようにしている。携帯電話を持つようになってから銃猟を始めるまで、長いこと腕時計をしない派であったが、山の中では携帯電話を取り落とす危険性も高い上に、猟銃を操作している際 (特に装填している時)は、不必要な動作はなるべく避けるべきである。ポケットから携帯電話を取り出しボタンを押して時間を確認するよりは、腕時計を見るほうが少ない動作で時間を確認できる。誘引狙撃では、日の出直後や日の入り直前に発砲することもあるため、常に正確な時刻を表示できることが期待される電波時計が便利だろう。また薄暗い林内で使うので、バックライトがあるとなお良い。私は現在、電波ソーラーとフルオートELライトの付いたG-SHOCKを使用している。

長靴は防刃素材でできたスパイク付きのものを使用している。スパイク無しの方が足音は静かになる気もするが、斜面を滑り落ちて大きな音を出す (そして怪我をする)リスクに比べたら些細なことである。斜面を歩くことに関しては、地下足袋のほうが適しているだろうが、移動時に川を渡ったり、解体時に川に入ることも多いので、私は長靴を愛用している。

作業ズボンのポケットに収納するものとしては、鍵・カード入れ (運転免許証・無線従事者免許・有害鳥獣捕獲従事者証)・携帯電話・携帯音楽プレイヤーを入れている。普段はこれに小銭入れと札入れが加わるが、山でお金を使うことはないので、家の近くでやるときは持っていかないことが多い。

次に、猟友会ベストに入れているものを紹介する。私の場合、常に身につけていないといけないものは全て、猟友会ベストに収納するようにしている。これには、所持許可証・狩猟者登録証・装弾・(救急セット)が含まれる。誘引狙撃の場合でも、半矢にして走られたのを追う場合、あるいは狙撃場所までの移動中にシカを発見した場合など、バックパックをその場に残して移動したい状況が生じうるので、所持許可証や装弾は、バックパックに入れるのではなく、猟友会ベストに入れるかウエストポーチなどに入れて、常に身につけておく方が良い。

装弾は基本的に、スラッグ弾を5発持っていくことにしている。餌を使った誘引狙撃の場合、1発撃つか撃たないかのことが多いので、5発も必要ないのだが、万が一、イノシシやクマに突進された場合に備え、散弾銃の最大連発数である3発は確保しておきたいのと、巻狩でも5発持っていくことにしているので、その数と揃えての5発である。

他に猟友会ベストに入れているのは、搬出用の細いワイヤーと懐中電灯くらいである。懐中電灯は、暗い山中を移動するためと、万が一クマに遭遇した際の目眩しとして使用する (効果の程は不明だが)ため、1000lmの強力なものを使用している。

猟銃は自作のカバーをかけて持ち運んでいる。カバーは蛍光オレンジの防水ナイロン生地を外側に、内側には薄い綿の生地を重ねており、ボタンで留められるようになっている。使わないときは折りたたんで、猟友会ベストの背面ポケットに入れることもできる。ダットサイトを付けた状態の銃がピッタリ入るサイズに作ってあるので、移動中に引っかかりにくい。一応これだけでも問題ないのだが、ピッタリ作ってある所為でカバーをかけても猟銃であることが一目瞭然なので、車で運搬するときは、更に別のゆったりとしたサイズのソフトケース (ゴルフや釣りの道具を入れるケースにも見える)に入れている。

続いてバックパックであるが、私は主に25Lのものを使用している。バックパックの容量は、出猟時の持ち物がピッタリ入る大きさではダメで、捕獲した個体の肉を持ち帰るところまで想定したサイズにするのが良いと思う。とは言え、車までの距離と、家から車で移動する距離によって、条件はだいぶ異なってくる。極端な話、シカが倒れた場所から車までが近く、家もすぐ近所である場合、捕獲した個体はとりあえず川に沈めておいて、銃と装弾などを家のロッカーに仕舞ってから、改めて解体・運び出しに来ることも可能であるし、その方が安全で無駄も少ない。一方、車までの距離が遠い場合は、車まで何度も往復するのは面倒なので (当然その間も、銃や装弾は身につけている必要がある)、1,2回で肉を運びきれるよう、容量の大きいバックパックを使用するほうが良い。

解体した肉は手提げのビニール袋に入れて、手で持って運べば良いと考える人もいるだろうが、山道を歩く時は安全のため、なるべく手が塞がっていないことが望ましいと思う。特に重量物は、バックパックに入れて運ぶほうが安定する。

目安としては、小型のシカを解体して自分が必ず持ち帰るであろう量 (例: ロース・モモ・ヒレ・心臓)を入れようとしたとき、他の収納物と合わせて、バックパックの外側のポケットを使ったり、紐で括って取り付けるなどの工夫を色々して、なんとか全部を収納できる容量が欲しいところである。その容量があれば、出猟時にはバックパックの中に全部を収めることができる。最初からバックパックの外側にごちゃごちゃと付いていると、狙撃場所に行くまでに、枝葉に引っかかったり、装備を落下させたりする可能性が高くなるので、それは避けたほうが良い。また、誘因狙撃ではバックパックを射撃時の委託に使用することもできるので、やはり外側には最低限のものしか付けないのが好ましいと思う。大型のシカを解体した時の肉量は、そもそも猟銃や装弾と共に1回で運びきるには重すぎるので、それに合わせてバックパックを大きくする必要は無いと思う。

ここからやっとバックパックの中身を書いていく。

・ナイフ
解体に加え、被弾して倒れたシカに止めを刺す時にも使うので、ある程度丈夫な方がよい。逆に大きすぎると、嵩張るし重い。一般的にハンティングナイフとして売られている、刃渡り10cm前後のシースナイフが良いと思う。予備として、一回り小さいフォールディングナイフを持っておくのも良い。私はモーラナイフ コンパニオン (オレンジ)と、ビクトリノックスのハンティング XSを使用している。

・双眼鏡
誘因場所にシカが来ているかを確認するために使用する。私はそれほど視力が悪いほうではない (両目とも1.0はある)が、50m以上先の薄暗い林床で、シカの姿を正確に捉えることは困難である。倍率は、距離70m前後までなら8倍で充分である。私は軽いことを優先して、KOWAのSV25-8というモデルを使用している。薄暗い場所で使うとはいえ、シカの輪郭が分かれば十分なので、よりレンズ径の大きな機種を使わなくても、今のところ不便は感じていない。100m以上となれば、10~12倍の双眼鏡を使うほうがよいだろうし、専用のスポッティングスコープを三脚と共に使うこともできるだろう。銃に高倍率のスコープが付いている場合、それで見れば双眼鏡などは要らないのでは、と考える人がいるかも知れないが、獲物かどうか分からないものに対して、装填されていなくても銃口を向けるべきではないので、双眼鏡でシカの姿 (と周辺に危険がないこと)を確認してから、猟銃を構えるというのが正しい。

・無線機
単独で山へ入る場合、特に携帯電話が通じにくい場所では、動けなくなったときのために無線機を持っておくと安心である。移動ルートの殆どで携帯電話が通じるという場所であれば、無線機を持っていく必要は無いかも知れない。ただし、携帯電話の破損とバッテリー残量に気をつける必要がある。

・クマ避けスプレー
私が実施している場所では、ツキノワグマがたまに出るので、万が一のために持つようにしている。使ったことはないが、持っていると安心できる。これだけは、普段からバックパックの外側のポケットに入れて、すぐ手に取れるようにしている。

・防音イヤーマフ
餌で誘引する場合は、巻狩と異なり獲物の接近を音で感知しなくてもよく、単独でやっているなら無線機を使う必要も無いので、聴覚保護のため防音イヤーマフか、耳栓、あるいはその両方を使用するのが良いと思う。荷物を少なくすることを優先するなら、耳栓タイプのものが小さくて軽いが、私は待っている間に録音したラジオ番組を聴くため、安物の電子防音イヤーマフを使っている。オーディオケーブルを繋ぐと携帯音楽プレイヤーと繋いで音楽を再生できるので、非常に便利である。

・座布団
アウトドア用の折りたたみクッションを持っておくと、冷たい地面に直接座らなくて良いので楽である。

・救急セット
猟友会ベストにも入れているが、バックパックにも普段から入れている。絆創膏、傷パット、テーピングテープなど、軽い切り傷から射創に至るまで、無いよりはマシなものを用意しておく。

・ハンドタオル
移動中に汗を書くことがあるのと、万一の際の止血にも役立つ。

・トイレットペーパー
移動中や待機中に便意を催すことが多いので、持っておくようにしている。

・ゴム手袋
解体時に使う。

・ビニール袋
解体した肉を入れる。30〜45Lぐらいのものが使いやすい。少なくとも3,4枚は必要。

・ペイントスプレー
・看板 (白い紙をラミネート加工したもの)
・油性マーカー
・デジタルカメラ
捕獲申請のための写真撮影時に使う。

・飲食物
カロリーメイトもしくはナッツバーと、500mLペットボトル入りのスポーツドリンクを持っていくことが多い。狙撃場所で待っている間に飲食することもあるし、捕獲があった際は解体・処理に時間と労力がかかるので、その前後に食べることもある。狙撃場所でお湯を沸かしてラーメンを食べる、というのは音的にも匂い的にも流石にダメな気がするが、これくらいなら問題なかろうと思っている。

・(シャベル)
残渣を埋めるのに使う。括弧書きにしているのは、私は持ち運んだり誘引場所の付近に置いておいたりせず、必要な時には車に取りに行って使用するためである。

長々と書いてきたが、私がシカの誘引狙撃に持っていく装備は以上である。なお、誘引場所の状況が許せば、上記のうち幾つかの物は猟期間中だけ、現地に最初から置いておくこともできる。私は、待機用の手袋、ゴム手袋、ビニール袋、双眼鏡、ペイントスプレー、油性マーカー、座布団を土嚢袋に入れ、目立たないように上から茶色のマットをかけて山中に放置している。待機用の手袋と双眼鏡は、食品用密閉袋に入れておくので、雨が降っても問題ない。これらを現地に置いておくだけで、移動時の荷物をだいぶ減らせるので、楽になる。

次回からは、出猟時の流れについて書いていく。

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